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ディレクターズ・ノート 006
なにが始まっていくのだろう? 2002/10/16

あらためて競馬場を歩く。
撤去は極めて順調に進み、今はインターゾーンもデメーテル・カフェも、ヴィンター&ホルベルトの緑のトンネルも川俣の木道も、蔡のUFOもニアルのカフェもシネ・ノマドのテントも、すべて、なにもかもがなくなった。いつもの静寂が支配する競馬場厩舎ゾーンに戻り、鳥がさえずり、秋草が茂り、冬に向かう風が吹くだけだ。
そう、『デメーテル』は終わった。
『デメーテル』がなんだったのか、もちろん考えてみようとするのだが、私の頭はまとまらない。帯広競馬場での『デメーテル』は終わったが、ちょうどばんえい競馬そのもののように、どこか違うところに移動していったような、ここではないどこかの競馬場で、ふたたび今、『デメーテル』が開かれているような、そんなどうしようもなく不思議な気分に襲われる。それも、この場所の力のせいなのだろうか?
10月10日。帯広の広小路に商工会議所が音頭を取って、GATEというチャレンジショップが開かれたので、行ってみる。ここにはサポートスタッフだった高坂光尚が「FLOW MOTION」というアートショップを開いていて、高坂自身のプロダクツやさまざまな書籍、アートグッズが置かれていた。知っている限りの帯広には、これまで存在しなかったような店のつくりで、そのしゃれたセンスに満足したのだが、ここにいると、次々に『デメーテル』を手伝ってくれたサポートスタッフたちの懐かしい顔が集まってきて、ああそうか、この人のつながりは終わることがないのだなと、無性にうれしくなる。いや、それだけではない。このGATEには高校生を含め、若い客が集まり始め、なにかこれまでとは違った、新しい息吹を感じるのだ。
その夜、私は帯広を離れたが、飛行場に向かうその前に、シティ・プロジェクトの参加アーティスト、高田佳子に連れられて、やはりシティ・プロジェクトに参加した田中愛弥の仕事場に立ち寄った。彼女は今、新しく開店するエスニック料理のレストラン設営を手伝っていて、ここで新しいアート・プロジェクトの構想を練っているのだという。そういえば、高田も新しいプロジェクトを画策しているし、「デメーテル学校」を続けようという動きもでてきている。
なんとか緑ヶ丘公園とかち池に岩井成昭の『耳と耳の間』を会期終了後も残すことはできたけれど、物質的な意味では、『デメーテル』が地域に残したものはほとんどない。『デメーテル』は人々の記憶のなかだけに存在し、現実には不在のままとなる。それが良いのか悪いのか、この時点で私には判断できないが、しかし私自身も感じる『デメーテル』の不在感が、これに加わってくれた幾人かの人々を実際に動かして、ここ十勝、帯広で、なにかが確実に始まりだしている予感はする。
それがなんなのか、そっと見守るつもりだ。
(芹沢高志)