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不在の競馬場
Absent Racetrack


ばんえい競馬というものは北海道内の4つの場所で年に4回行われているが、競馬期間中、開催されていない残り3つの競馬場は場外馬券場として機能する。いわば馬が不在の競馬場だ。作家はこの「不在の競馬場」の風景から作品のヒントを得た。
2002年5月の競馬出場検定試験をパスした2歳の雌馬を、馬主に掛け合って「デメーテル号」という名を付けさせてもらった。この実在の「デメーテル号」は、デメーテル期間中、展覧会場外の競馬場で実際にレースに出場する。その間、展覧会場となる帯広競馬場では、不在を象徴するかのような木馬の「デメーテル号」が、厩舎と競技場を通常の競走馬が動き回るように木道のトラックの上を走ることになる。不在と実在が入り混じった帯広競馬場では、どのようなドラマが繰り広げられるのだろうか。

※この木馬は人が乗って走れるように設計されており、デメーテル期間中に展覧会場内では「木馬レース」が数回実施されます。詳しくはイベントページをご覧下さい。








リロケーション 1997


椅子の回廊 1997


1953年、北海道生まれ。
現東京在住。

現実の都市その他の空間に侵入し、そこを大胆に変質、異化させていく、特異なインスタレーション。川俣作品のラディカルな力強さは、国際的に高く評価されてきた。最近は芸術と社会、都市と人間、歴史と現在といった普遍的なテーマにしっかりと照準を合わせ、世界各地で大規模なアート・プロジェクトを展開している。

近年の発表

2001 『ロッジング東京』(東京)
2000 『ロッジング・ロンドン』(ロンドン)
2000 『ワーク・イン・プロイグレイス豊田』(豊田)


photo


12月11日、川俣正はお昼の便で帯広空港に到着した。アートプロジェクトのビデオ・ドキュメンテーションを撮り続けているカメラマンの荒木隆久は、ひと足早い便で来て出迎え撮影。早速、会場の競馬場へと急ぐ。帯広では冬にしか行なわれないばんえい競馬が開催中なのだ。夏に人っ子一人いない競馬場を視察したカワマタは、競馬開催中の訪帯を希望していた。魔法のように、一夜にして出現した競馬場の町。そこでは食堂、公衆浴場、コンビニなどが突如として営業を始めている。まるで『千と千尋』のようだ。スタンドから厩舎地域に入ると、馬、馬、馬。これから出場するのか、興奮気味の馬たちが調教師に引かれて道を通る。空っぽだった厩舎には飼葉が敷き詰められ、厩務員の方たちが馬の世話をしている。柴犬も、外部からの侵入者である私たちに向かってひっきりなしに吠えたてて、ちゃんと自分の仕事をしている。カワマタは、厩舎外の柵にずらーっと並んだ馬を熱心に撮影、ふと足を止めると、そこ には蹄鉄の打ち直しをされている馬が一頭、お尻を向けて繋がれている。蹄鉄専門の鍛冶屋だ。やおら、尻尾がかすかに持ち上がり、なにごとかと思って見つめていると、フォーッとおなら一発。一同、大笑い。
夜のレクチャーは、これまでにないほど若者を集め、市民の方々もすっかりオトコ、 カワマタに魅了された様子。「詳しいことは合宿で」と、いとも簡単に聴衆をプロジェクトに巻き込んでしまった。さらに「一番面白いのは、展覧会が始まる前の制作時期」と言って皆をその気にさせまくる。帰りがけ、ボランティア・スタッフの畜大の学生さんに、「君たちの学校を出て騎手になる人はいないの?」と問うカワマタ、なにを企んでいるのやら、胸は期待で一杯。(敬称略)